BIOMBO/屏風 日本の美展

午後、天王寺公園大阪市立美術館へ。
このところ企画の充実した良い展覧会が続いています。この屏風展は記憶に残る素晴らしい展覧会と思います。展示の入れ替えがあるようなので、もう一度行って、じっくり見ようとカーチャンと意見が一致。絵画であり、室内の調度であり、多様な機能を持った屏風の魅力を再認識しました。
今週は京都で開催されている狩野永徳展のチケットを頂いたので、こちらは混みそうだから平日休んで行くつもりですが、今日の屏風展と併せて観るとより伝統的な美の理解が深まると思います。

BIOMBO/屏風 日本の美展
http://osaka-art.info-museum.net/special019/special_biombo.html

ランドスケープの描き方が、右上に傾けたアクソノメトリックパース(不等角投影図)を基本としていて、どこまで遠くを描いても焦点が無いので、縮小されていかないので、事物の様式を図として描くのにとても向いていて、見ていて気持ちが良いですね。その分、どこまでも世界をきちんと描かないといけないので、部分的に金の雲を配して、つなぎながらうまく省略するところが絵師の腕の見せ所ですね。
印象的だった屏風は、やはり海外への外交上の返礼として贈られたものや、国外に流出して海外の美術館の作品として収蔵されているものですね。それらは生活の中で使うということが無く、あくまで美術品として扱われてきた為か、保存状態がとても良く、金箔の光沢とともに、当時の外国人が見れば、黄金の国と想像するのも無理がないですね。
その中で、六章「海を越えた襖絵と屏風絵」のコーナーの、カタログ図版95、祇園祭礼図屏風(17世紀 江戸時代 ケルン東洋美術館収蔵)と、図版98、賀茂競馬図屏風(17世紀 江戸時代 クリーブランド美術館収蔵)の描かれた空間の密度は尋常では無い感じがします。重なり合う群像は、表情、姿勢、衣服の意匠が、同じ物が二つと無く、これを描いた絵師達の日々の鍛錬の深さと執念を感じさせました。
4章「近世屏風の百花繚乱」のコーナーの、図版55、関が原合戦図屏風(桃山時代17世紀 大阪歴史博物館収蔵)も、合戦の兵士達の、長槍で戦うところの様の、槍のベクトル観がとても良くて、今にも動き出しそうな印象があり、僕が好きな、ジャック・カロの戦争画の銅板画のイメージをすぐに連想しました。動画の無い時代にあって、動きを何とか伝えようとするところ、この辺りの表現は万国共通の感性がありますね。
5章「異国に贈られた屏風」の、図版83賀茂競馬図屏風(狩野薫川中信筆 安政三年(1856年)ライデン国立民族学博物館収蔵)や、図版84四季耕作図屏風(狩野春貞房信筆 安政三年(1856年)ライデン国立民族学博物館収蔵)の、ランドスケープの穏やかさと河川に描かれている竹か柳による蛇篭の工法のところも、親自然な感性が伝わってきて良いですね。親自然な工法は様々な形で復活してきていますし、このような光景を現代にも取り戻したいですね。
それから、この展覧会で良かったのは、ほとんど現存しないらしい、屏風の下絵が数点展示されていることですね。制作の過程がよく伝わってきます。
図版90金地墨画梅 御伺下絵(狩野休清実信筆 安政三年(1856年)東京藝術大学美術館収蔵)は、原寸の下絵を起すさらに前に、幕府に、絵のテーマ等、お伺いを立てる為のスケッチ。ほぼ展示されている屏風と同じ内容と構図なので、それで決定された事が分りますが、他のアイデアを見せたりとか、複数案提出するとかいうプロセスは無かったんでしょうか?よく分りませんが、でも、こういうやりとりをして作るところ、ずっと同じ作法で繰り返してきたんだろうと思いますね。クライアントとアーティストの関係は、現代でも、アートに限らないで、ほとんどのビジネスの場面で、合意形成のあり方として共通のところですね。
図版76春秋堂上放鷹図屏風下絵(住吉広行筆 江戸時代 早稲田大学図書館収蔵)は、原寸の下絵で、部分的に白で修正して、位置や大きさを修正して手を加えているところがリアルに残っていて、これもその息使いが伝わってきて、よく分りました。
一点一点に、その時代の特色があり、見飽きませんでした。カタログも素晴らしい出来で、もし展覧会見ることが出来ない人には購入お薦めですね。