京都大学 こころの未来研究センターにて療育

午後3時から第一回目の療育。早い目に大学に行き、昼食を大学内のレストランで取る。前回、お話をお聞きしに来た時、アーチャンはお子様ランチ食べて(量は僕達と分けてカロリー調整して)それがとても気に入ったらしく、今回も同じものリクエスト。もちろん学生さんがお子様ランチ食べる訳でも無いのでしょうが、観光地のルートの一つになっているようですね。おまけに最近ここの総長カレーなどをTVで放送したらしく、とても混んでいました。
食事してから、施設まで、アーチャンはドングリとか落ち葉とか一杯ひらいながら歩いていきました。近くまで来て、担当のITさんに携帯で連絡すると、アシスタントのIDさんと一緒に迎えに来てくださり、アーチャン手にいっぱいのドングリ持ったまま固まっていました。

療育のプログラム
1、パソコンでひらがな打ち
2、読んで書く、読んで言う
3、いつ、どこクイズ
4、数・形
合間に、スケッチブックにお絵描きする休憩タイムを取って頂いて、ちょこちょこ描いていました。アーチャンのペースに合わせて、ゆっくり無理なく課題を出してもらえるので、楽しみながら取り組んでいました。
パソコンを使った課題は、終るとファンファーレとともに、掛かった時間が表示される仕組みになっていて、それを記録していき、能力がアップしていく様がよく分るようになっていました。(ただ、研究目的の為か、表示が154.62秒というように、秒以下の小数第二位まで表示されていて、それを細かく読み上げていましたが、果たして小数第二位まで表示しても、その理解自体が難しいので、そこは秒単位でまるめても良いように感じました。)
文字を目で見て答えるもの、音で判断する物、そこで出てきた文字を次の課題では、例えばイスの画像を示して、イスと文字入力したりと、同じ対象物をいろいろなパターンで認知させて、その認知の機能のどこが弱いか強いかを探っている感じでした。

前回のお話の際に、アーチャンが描くものは、対象が重なりあっている時でも、すべて分離して、重なって隠れているところも想像して描いていることをお伝えし、その画像もいくつかお渡ししました。以前、PWSのお友達と一緒に開いた展覧会での、お友達の絵も、全て同じように、分離して描かれていたので、その画像も親の方の了解をいただいて、今日お渡ししました。そのことに関連した訓練と思われるものもあり、とても興味深かったですね。
パソコン上に重なり合う、四角と三角の図形が描かれていて、それをアーチャンが見て、紙に写して描くというもの。
1:モニターの画像=線のみのもの 透けて重なっている
  アーチャン描画=モニター画像の通り描いた
2:モニターの画像=線のみのもの 四角の後ろに三角が半分隠れている
  アーチャン描画=モニター画像の通り描いた
3:モニターの画像=2を青と緑の色面で表示したもの
  アーチャン描画=1で描いたものと同じように重なった三角の隠れている部分も描い た。
4:モニターの画像=3の重なった部分を白抜き表示したもの
  アーチャン描画=これは色エンピツで色を塗るように指示を受けた。
          3で描いたものに塗り始め、重なった部分の白いところは無視して、四角の後ろに三角があるように描いた。小さく描いたので、細かな部分を表現できなかったのか、重なった白い部分を認識できなかったのか判別は難しい感じ。
傍から見ていてもとても興味深いですね。

こうやっていろいろと見ていただく事で、普段気にしていたこととか、記録していた事とかに、きちんとした理由付けがなされていき、認知の優れているところや、弱いところがはっきりしていけば、対応の仕方もより適切になっていくと思いますね。期待したいです。

療育の後、担当のITさんと、いろいろお話。予定よりずいぶん時間オーバーしてしまい申し訳ありませんでした。
話の中で良いなと言うか面白いなと感じたのは、僕のblogを、療育の関連のキーワードで検索されて、該当することについて、こちらに質疑して来られたところですね。僕はメモ魔だけれど、一度記録すると、忘れてしまう事も多いし、blog日記を自分のデーターベース的に振り返って検索して使う事も多いですから、意識的、無意識的に、日々の記録をできるだけ事実のまま正確に記述しておけば、どこかでヒットすると思いますね。

その記録http://d.hatena.ne.jp/prader-willi/20070125/memoは、母子保健センターでの発達検査の際に、アーチャンは「横に並んだ丸印を指で数える課題で、右側から数える時は間違いも無くうまく行くのに、左から数える時は、飛ばしたり二度数えしたり混乱しやすい」という傾向がみられたのですが、その点について、最近の傾向を聞かれました。
あまり意識していなかったので、忘れていたし、気付いていませんでした。また気を付けて見ておきたいですね。
これに関連して、人間の数の認識の特色として、SNARC効果(spatial numerical association of response codes)というものがあるらしく、「大きい数字は自分にとっては右側で反応し、小さい数字は自分にとって左側で反応する」という傾向があるらしい。普通に1,2,3,4・・・・と文字で左側から小さい数で始まるのと感覚的に同じですね。
アーチャンが右側から数える方がうまくいくというのは、ひょっとすると、SNARC効果が反転しているかもしれないとの事。それと関連して、鏡文字を書きませんか?と質疑を受けたが、今のところ、「ねこ」を「こね」と書いたり、文字の並びが逆になることはあっても、鏡文字を書いたことは無いので、文字の反転はなさそうですね。でも時々絵を、上下逆にして描く事もあるので、注意して見ておきたいと思いました。

それから以前、僕が気になって記録していた、アーチャンの描画の変化のところについても資料http://d.hatena.ne.jp/prader-willi/20060314/artanartをお渡しして質疑してみました。これはずい分前の変化だから今からどうこうという事ではありませんが、PWSの視覚や認知のあり方について、関連研究があればよいなと思っていました。それは、なぐり書きを始めてしばらくしてから、急に見たまんまに近い感じの描き方を始めて、面白いなと思っていたら、言葉をたくさん喋るようになった時期と重なるように、頭足人的な抽象化された、分節化された描き方に変化していったところですね。
この点についても、ITさんからは、例えばサヴァン症候群の人たちは、一目で見た光景を詳細に再現して描く能力を持っているが、しかし成長とともに言語能力が高まると、脳の記憶を司る部分とのバランスが変化していくのか、詳細な描写能力を失っていく、という事が知られているのだそうです。
抽象的な描画の時期がとても大切なんでしょうね。そこに適切に関わる事で、文字や言葉の能力もよりよく育む事ができるのかもしれません。
様々な研究成果の中から、的確に答えていただくので、今まで漠然と記録してきたものを、有機的に繋げて、それぞれの意味を確認できるとありがたいですね。結果的にPWSの療育や行動の問題などへの対応法につながれば良いなと思います。
また来週お伺いして療育を受ける予定、これからもよろしく御願い致します。

こころの未来研究センター
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/ja/index.php

正高信男先生の研究室
http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/koudou-shinkei/ninchi/people/masataka/top.html

帰宅後、お話のあったSNARC効果のことを検索してみました。なかなか面白い現象。横方向の効果だけでなく、上下方向にも効果はあるらしい。これは日本語の文字の縦書とは違って、下から上に向かう効果らしい。
それを読んでいて、僕は最近たくさん見た金屏風や絵巻物の形式のことを連想しました。絵巻物の場合、右側から始まり、左へと話は進んでいく。描かれている対象物はアクソノメトリックパース(不等角投影図)で、概ね右上上がりの傾きで描かれているように感じる。そうすると、横軸は右から左へ、縦軸は下から上へ、となる。左と上が遠い世界を描いている事になる。長い歴史のなかで培われてきた描法だから感覚的にも馴染むものと言える。陸上トラックを反時計回りに廻ると、同じように横軸は右から左になっていく。でも、ずいぶん以前に、陸上競技場のプロジェクトに参加した際に、資料を読んでいて、昔はトラックは時計周りに走っていたらしく、第一回の近代オリンピックも時計回りに走っていたという。時計回りに走れば、横軸は、左から右となるが、反時計回りに親しんだものには、走りにくい感じがする。横軸は左から右か、右から左か、どちらが感覚に馴染み良いのか?SNARC効果が学習による効果ではないのであれば、左から右の軸が見良いのだろうか?
サッカーの審判を若い頃資格も取って、長い間やったけれど、あれは、対角線審判法と言って、かならず左対角に走ることになっている。左対角だから、反時計周りに近い感じ、だけれど、ジャッジの瞬間はラインズマンとはさんで見るから右側を向くことが多いので、視線方向は時計回りの時に近い。肉体的には心臓を軸にして走る反時計回りが楽で、視覚的には時計回りの方向が楽ということだろうか?