めりカフェ出張編「抹消の痕跡をたどる─ルネサンス美術における上塗りと未完成」

夜、このはな区の四貫島PORTへ行きthe three konohanaで開催中の「OBJECTS ARE CLOSER THAN THEY APPEAR」展の関連イベントに参加しました。

めりカフェ出張編
「抹消の痕跡をたどる──ルネサンス美術における上塗りと未完成」
特別講師:古川 萌
http://thethree.net/news/2358
the three konohanaのwebより引用
講演の録画や詳しい資料が添付されています。

何度もこのはな区のアートイベントに伺っていましたが四貫島PORTは初めて入りました。(ここを管理されているのが昨年娘がenocoのワークショップでお世話になった米子匡司さんという事も知りませんでした、久し振りに再開)

今日のイベントに参加した動機はひとつは、展覧会のキュレーターの長谷川新さんへの関心から(私が現代アート知るきっかけとなった心の師でもある福岡道雄さんを、昨年「無人島にて」展で再評価されたことから、とても嬉しくて、どんな方なんだろうと)

もうひとつは、the three konohanaさんのギャラリーのオープニング展の伊吹拓展「“ただなか” にいること」の時に感じた、「作品はいかにして完成されるのか?」という現代アートにとってとても大事なテーマについて、深堀することが出来るのではとの関心からでした。それは私自身の思考のベンチマークの一つでもあるし。

伊吹 拓展
http://d.hatena.ne.jp/prader-willi/20130316/art

講師の古川萌さんはまったく知らない研究者さんでしたが、講演内容はその関心に様々な示唆を与えて頂けるものでした。
私の西洋美術への関心は娘の疾患のprader-willi症候群に関連して、現在の知見からはその5歳くらいの少女をモデルに肖像画を描いたのではとされる、スペインのファン・カレーニョ・デ・ミランダという少し屈折したような画家の前後の時代、17世紀の中頃辺りにありますが、その時代とルネサンスの時代とをつなげて頂けたように感じました。

講演はⅠ.上塗り、とⅡ.未完成(ノンフィニート)に大きく分かれてのお話でした。

未完成の項には(ノンフィニート)と括弧書きでイタリア語を添えて強調してあるし、当初の私の興味もそこにありましたし、とても示唆に富んだお話でしたが、より強く印象に残ったのはⅠ.上塗りの、塗りつぶしの項の、フラ・パルトロメオの「ピエタ」の背景についての解説のところでした。(添付資料に修復前と修復後の画像があります)

何故この絵が強く印象に残ったのか? おそらくこの日の朝、イスラム国による後藤さん処刑のニュースや動画情報が流れてきて衝撃を受けた事が大きい(キリストの処刑と、背景の途上の修復で首から上が切り取られた聖人の像から)のですが、1510年頃の制作当初の背景の明るさから、17世紀頃の修復によって真っ黒に消された背景自体にも様々なイメージがリンクしてきたのだと思います。
古川萌さんの解説では、コントラストを強調する真っ黒な背景は、当時の絵画の流行との関係があるとのことでしたが、では何故そのような真っ黒な背景が流行したのだろうかと連想する。

スペインのファン・カレーニョ・デ・ミランダが描いた、娘の疾患のprader-willi症候群児の肖像画の制作年は1680年頃。その時代をベンチマークに意識して、知った事として、当時は太陽活動が極端に低下し、ヨーロッパや北米が有史の中で最も寒かったのではとされるマウンダー極小期(1645年から1715年)に当たっていて、天候不順、天変地異に見舞われて、とても暗い時代だったのかと連想する。それ故の真っ黒な背景の流行なのか?(エビデンスは無いけれど)

フラ・パルトロメオの「ピエタ」の美術館の情報を翻訳して転載されている方のweb読むと

『1529年外国軍から攻められる前に城壁の外の修道院はすべて破壊された。そのうちのひとつサン・ガッロ修道院から運ばれた。川に近い教会に置かれていたため何度か洪水に遭い、また上部は切断されペテロとパウロの頭部が無くなっている。1985-88年に修復された』
http://www.yamada-kouji.com/nenpyo/renai_it/rei_1510/1510_por.html

とあり、数奇な運命にさらされつつ、奇跡的に残された絵画であるようですね。

その他、時空を超えて様々なイメージがリンクしてくるように感じます。
今日の講演会の冒頭、長谷川新さんが挨拶で述べられた、ジェーン台風関連の調査で、展覧会より以前に既にこのはな区に来ていたこと。
「OBJECTS ARE CLOSER THAN THEY APPEAR」展のコンセプトとして、「描いて消し」があることなどが、ピエタの絵画のイメージと結び付き始めます。

戦争による修道院の破壊、洪水等数奇な運命とマウンダー極小期による天変地異、現代史のジェーン台風の話、イスラム国の処刑、聖者の頭部の切断等が時空を超えて繋がってくる。

繋がってくるのは無意識の働きなのか、古川萌さんがおわりにで述べられた「抹消によって可視化されるもの」とは人間の無意識そのものかもしれないと連想した。