Prader-willi症候群とNecdin遺伝子の関係について
大阪大学 吉川和明先生への質疑と回答
今年に入って、医療専門の検索「PUBMED」で、Prader-willi症候群についての研究発表がたくさんアップされています。研究が進んで多様な症状に対する治療法が開発されることを、患者家族として願うばかりです。
そのうち、Prader-willi症候群の原因遺伝子の一つと言われているNecdin遺伝子の欠失とセロトニン神経等の異常との関係について、海外の研究が発表されていたのですが、かなり難しい内容で、かつ英語の論文の要約である為、なかなか理解ができませんでした。それで、Necdin遺伝子を最初に発見された吉川和明先生(大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質機能制御部門)(以前、僕のblogに「Necdin遺伝子とPWSの関係について」テキスト載せていただきましたので、こちらも御覧くださいhttp://d.hatena.ne.jp/prader-willi/10000201
)にメールで質疑させていただいたところ、丁寧な御返事いただきました。数度の質疑応答をまとめたテキストの、僕のblogへの転載も許諾いただきましたので、下記に記載致します。
質疑-1
最近、pubmedで、下記のような研究を見つけました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=15649943
難しい内容で、充分把握できていませんが、Necdin遺伝子欠失すると、セロトニン神経に異常が生じるという理解でよいのでしょうか? pwsの場合、セロトニン神経に問題があるようで、行動の問題(脅迫性障害)や skin-pickingや過食症との関連が示唆されているようです。私の娘も5歳になり、少しずつですが、こだわり行動が目立つようになってきています。 Necdin遺伝子の研究が進めば、いずれ誕生後であっても、pwsのセロトニン神経等の治療法開発される可能性あるのでしょうか?なんでも結構です。教示願います。回答-1(吉川先生)
お問い合わせの論文の件ですが、この研究は呼吸困難で死亡するNecdin遺伝子欠損マウスを以前に報告したカナダのグループのものです。神経細胞の突起を伸ばすのに必要な蛋白質が、Necdinと結合することを報告しています。また、Necdinがないマウスではセロトニンを含んだ神経細胞だけでなく、色々な神経細胞の突起形成に異常がみられることを報告しています。
Necdinが結合する蛋白質としては既に10種類以上が報告されていますが、おそらくもっとあると思います。また、私たちも自分たちで作製したNecdin欠損マウスを使って研究を続けていますが、Necdinは様々な神経細胞の働きや生存のために重要な働きをしていると思われます。上の論文で報告されている現象も、おそらくその一部ではないかと考えています。質疑-2
Necdinがないマウスでは、神経細胞の突起形成に異常が見られるとのことですが、これは人間の場合も同様なのですね?
回答-2(吉川先生)
人間の場合はどのような異常があるかは全く判っていないと思います。あくまで、カナダのグループが作ったNecdin欠損マウスではそのような変化があったということです。他のNecdin欠損マウスでは、報告されていません。
質疑-3
PWSの場合で、現在研究が進んで、私の知る限りでは異常のある神経等として、オキシトシン、セロトニン、gabaa、グレリンなどがあるようです。これら全てにNecdinが関係してくるという訳ですね。
回答-3(吉川先生)
これらの異常もPWS患者ではほとんど判っていないと思われます。PWSでの脳の変化(神経病理学)の研究は少ないので、これから研究が進めば明らかにされると思いますが。質疑-4
神経細胞の突起形成に異常がある場合、例えばセロトニン(PWSの場合、脅迫性障害があり、セロトニンと関連あるらしいので)の場合、セロトニン自体の産生が減るのか、セロトニンは普通に産生されるが、受容体に変異があり、伝わりにくいのか、もしくはその両方なのか、その辺り教示願えないでしょうか? 治療法の一つとして、SSRI(セロトニン再吸収阻害剤)の使用が有効らしく、受容体が機能しているようなので、不思議に感じます。突起形成に異常があっても、神経としては働くのでしょうか?回答-4(吉川先生)
このことに関しても、セロトニン神経の発生(発達)が異常なのか、機能が異常なのかについては明らかにはなっておらず、単に臨床症状と治療薬からの推定に過ぎません。マウスなどのモデル動物を用いた基礎研究が必要な所以です。
Necdinはほぼすべての神経細胞の発達に必要だと思われます。Necdin含量は脳の視床下部以外にも脊髄運動神経、末梢神経(自律神経や知覚神経)に多いため、PWSでも末梢神経の異常があるのではないかと思います。またNecdin欠損マウスでは痛みの感覚を伝える知覚神経の発達にも異常があるようです。
質疑応答は以上です。
御多忙中丁寧に回答頂いて、ありがとうございました。吉川先生の基礎的な研究が、いつかPWSの諸症状の原因を解明し、治療法に結びつくことを願っています。これからも、よろしく御願いします。