Hope for appetite disorder sufferers

海外のprader-willi症候群の過食症の治験の情報。副作用なしで初めてPWSで成功したようですね。

Hope for appetite disorder sufferers
http://www.smh.com.au/lifestyle/wellbeing/hope-for-appetite-disorder-sufferers-20110626-1glub.html

Effects of a Single Dose of Exenatide on Appetite, Gut Hormones, and Glucose Homeostasis in Adults with Prader-Willi Syndrome.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21632815

エクセナチドという薬は、糖尿病治療薬らしく、でもグレリンを抑制する作用があるので、PWSで治験されたようですね。結果副作用(吐気等)も無く、うまく食欲抑制できたようですが、何故かグレリンは下がらなかったようです。この辺りは食欲のメカニズムの不思議さでしょうか?
でも、この治験も元をたぐれば、グレリンを発見された寒川、児島先生のおかげですし、感謝です。先日のオキシトシン投与の治験の成功と併せて、PWSの患者家族にとって朗報が続きますね。しかも、オキシトシンニューロンの減少の解明につながるnecdin遺伝子発見は大阪大学の吉川先生ですし、グレリンは発見当時、大阪循環器病センターに居られた寒川&児島先生によるものですし、大阪人としては、これらの基礎研究者さんが目の前に居ながらにして、その恩恵を直接的に受ける事ができないで、こうして海外の治験情報によって知っている現状は、とても歯がゆいものがありますね。
アーチャンが生まれた頃、これらの先生方への直接的な質疑を通して得られた、研究要請を患者家族会へ提言した際に、却下されたこと、改めて無念に感じます。親の会の会報に掲載した僕のコメント再録します。2002年ですから、もう既に9年も前の話。

長女はこの10月に3歳になります。父41歳と母37歳の時の高齢初産で、最後の検診の時、仮死心音停止状態である事が判り、緊急帝王切開。その時どんな状態でもいいから生まれてきて欲しいと願い、娘の顔を見た時の喜びは忘れられません。現在「かーちゃん」「ワンワン」「オーシッコ」が喋れます。夏休みに海遊館ジンベイザメの水槽につかまり立ちして大興奮でした。PWSの告知を受けた時、先生に自立できるのでしょうか?とお聞きしたところ、「自立できなくても、いいじゃないですか、こんなにかわいいんだから」と言われ、その珍名回答に夫婦とも何となく納得して、笑いの力で救われたような感じがしました。成長はゆっくりですが、今のところまだ悩むような症状もなく、娘の今の笑顔が家族の中心にあります。長い間心臓の発作で入退院繰り返していた私の母も最近ようやく回復し、娘に、へばりついています。
PWSの情報は少ないし、ホームオフィスで一人で一日中パソコンに向かっていると、仕事は手につかず、延々とPWSの情報を求めてネット検索していました。しかし、得られる情報が目の前の子供からは想像できない程過酷な為か現実感を失い、不思議な楽観的な予感に囚われるようになりました。誤解や批判を恐れずにそのまま書きますと次のようなことでした。
1、子供を授かる。
2、何か特別な能力がある。
3、過食をコントロール出来るようになり、快適な食生活を送れるようになる。
臨床の先生もPWSを診られる機会が少ないので、個人で、ネット上で発言されている研究者の先生に直接お聞きするしか方法がありませんでした。そして専門家でもまだよく分からない部分があり、聞いているこちらは医学の知識はまったく無い状態で、こんな不安な時に総合的に相談に乗ってくれるサイトのようなものがあればいいなと感じるようになりました。(例えばダウン症のネットワークのように相談だけでなく、子供達の描いた絵画等のギャラリーをつくったりと楽しい雰囲気で)
以下は1〜3項について個人的に相談した記録です。これを個人レベルで残して置くにはもったいない内容と思い研究者の先生の了解(実名記載の部分)を得て記載いたします。このようなやり取りをネット上で出来れば、より多くのPWSの方を救えるのではないかと思います。

1の「子供を授かる」については、紹介を受けたPWSの経験が長く良く診ておられという医師からは「PWSは絶対授精しませんよ」と突き放されたので、そんなはずは無いPWSの領域の遺伝子半分残っているなら生き延びようとするはずだと素人ながら勝手に(医学的に正しいかどうか確かめていませんが)思い、ネット上でよく発言されている先生に直接TELをしたところ、アメリカで授かった方の御話していただいた。先生からは「そんな将来の事ばかり考えているのは現実からの逃避ですよ。眼の前のこの子だけ見つめてあげなさい」とアドバイスいただく。御話のおかげで気持ちが少し落ち着く。可能性は限りなく少ないがゼロではないようだ。
2の「何か特別な能力がある」は自分でもどういう能力なのか判らず、ただそのように思うというだけで、何の根拠もありませんでした。その頃ネット上でPWSの原因遺伝子の一つとされるNecdin遺伝子の話が出ていました。発見された大阪大学の吉川先生に直接TELすると、Necdin遺伝子は細胞分裂の停止に関わる機能があるらしいとの事。素人的に、それならばPWSの場合それが欠失するのなら細胞分裂が停止せず、脳のある部分が健常者より成長するのではないか?と考え(かなり悩みの淵に沈んでいたと思います)お聞きしたところ、他の遺伝子の働きがあるのでそのような現象は起こらない旨回答いただいた。残念。ところがである。それからだいぶ経った、昨年暮れの京都でのPWSの講習会でPWSの人は何故かジクソーパズルが得意という話が出てきた。帰ってからネットでさっそく「PWS ジグソー」等で検索すると、何と吉川先生がそのあたりの事書いておられるではないか。さっそくEメールで質問してみた。以下は吉川先生とのEメールの原文のままです。

Q:PWSは何故かジグソーパズル得意である旨聞きました。吉川先生の御研究のNecdin遺伝子と関連するのですか?Necdin遺伝子がPWSの場合欠失することで、脳の空間記憶に関連する部分が健常者よりも成長するのでしょうか?
A: PWSの原因遺伝子は15番染色体のq11-13にあると推定されていますが、この
部位には遺伝子が数個存在します。したがって、どの遺伝子が原因となっているか
を 調べるためには遺伝子操作マウスを用いて個々の遺伝子を破壊して、それによっ
て PWSの症状が起こるかを調べる必要があります。一昨年、フランスのMuscatelliら
の研究グループがNecdinの遺伝子を破壊したマウスでは空間記憶が良くなっているこ
とを報告しました。なぜそうなるかは良く分かりませんが、Necdinがなくなると一部
ニューロンは分化出来ずに減少するが、一部のニューロンは数が増加する可能性も
考えられます。私たちも遺伝子操作マウスを使ってメカニズムを研究しておりますが、
まだ、明確な結論は得られておりません。
大阪大学 蛋白質研究所蛋白質機能制御部門 吉川 和明      
今回会報への記載了解いただく為再度Eメールしたところ追記もいただいた。
「フランスのグループをはじめ、その他の研究グループもNecdin遺伝子欠損マウスを用
いてPWSのメカニズムを研究していますが、まだ、続報は出てきていません。私達
もNecdinがなければ神経細胞がうまく分化できないらしいことは分かってきましたが、
まだ、断片的なことしかわかりません」

吉川先生ありがとうございました。空間記憶が良くなっているという研究に期待したいですね。研究者の方もPWSの中に不思議な特別な能力を感じるのだと思う。そうでなければこんな実験するはずない。PWSの子供たちはたぶん「新しい人」になろうとしたんだと思う。類人猿から人へ進化したのだから同じような事が現在の人から「新しい人」へと起きても不思議ではないはずだ。そしてPWSの場合、ジャンプに失敗したのではないと思う。空間記憶のこの部分をうまく活用してあげれば、私達の想像を越える能力を発揮するのではと真剣に思う。

3の「過食をコントロール出来るようになり、快適な食生活を送れるようになる」については、まだ娘は過食の症状は無くこれからの問題ですが、やはり一番の問題だと思う。
最近アメリカのPWSAのホームページにPWSの過食時の血液検査の結果が載っていました。グレリンという主に胃から産生されて食欲を刺激するホルモンの血中濃度がPWSの場合、健常者より異常に濃いらしい。このグレリンも日本人のグループが発見。2001年度の世界中の全ての学術論文の中で最も注目を集めた研究らしい(日本人初の快挙)研究者の久留米大学の児島先生に直接お聞きした。TELの御話では過食のコントロール等かなり期待してよいそうです。先生からEメールもいただきました。感動的な内容でしたので下記に記載します。

「私たちの研究をみていてくださる人がいるということで、身が引き締まると共に、さらに研究を続けて少しでも世の役に立てればと思います。
私は夢、希望、奇跡などを信じる方で、「夢、希望は強く願っていれば必ずかなう」、「奇跡は起こるためにある」と信じています。今は治らない病気でも、将来必ず治療法が見つかります。強く信じていてください」
久留米大学分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門 児 島 将 康

再度Eメールしたところ追記もいただいた。(文中のNPYとかAGRPというのはグレリンの刺激を受けて食欲を刺激する視床下部の部分らしいです。)

「私のメッセージ、つたないものですが、少しでもお役に立てれば、どうぞお使いください。また摂食の仕組みですが、NPYやAGRPをなくしたマウスを作っても摂食行動は変化ないことから、摂食の調節にはまだまだわかっていないことが多いようです。いくつかのホルモンが(まだ未知のものも含めて)補い合って調節しているのかもしれません。そのバランスが崩れたら、過食や食欲不振になるのかもしれません。まだまだ、研究を進めないと、わからないことが多いのでしょうね。それでは、また」

児島先生ありがとうございました。「dream come true」ですよね。不安だった心に何か支えを与えていただいたように感じます。
(以下略)