「障害のある人の芸術表現による自立とその支援について」

午後7時から、應典院さんにて、障害とアート研究会 第8回研究会「障害のある人の芸術表現による自立とその支援について」に参加してきました。
発表者は川井田祥子さん。
元々企業のOLであった川井田さんが、友人の誘いで、たんぽぽの家主催のわたぼうしコンサートを見たことで、それまでの障害者に対して抱いていた既成概念と現実とが大きく違うことに気付く事で、労働する事の意味や、生きがいとは何だろうと、様々なことを見つめ直すきっかけになり、様々なボランタリー・セクター(たんぽぽの家やアトリエインカーブ)での活動につながっていったとの事。川井田さんは淡々とお話をされるので、自己紹介のところ何気なく聞いていましたが、でもこうして記録として書こうとすると、ずいぶん大きなチャレンジのように思います。
お話は、大学で書かれた修士論文を手掛かりに進みました。御研究のベースが創造都市論ということもあり、射程の広いテーマ。いくつかの基本的な概念の解説と具体的な活動から得られた分析へ。

基本的な概念の解説

福祉国家の機能不全
現在の「福祉国家の機能不全」の状況、グローバリゼーションの進展と産業構造の急激な転換等によって、1980〜90年代の欧州先進諸国で生じた社会的排除に対する反対の概念としての「社会的包摂性」の諸アプローチの図式(宮本太郎氏論文から)
図そのものの引用はここでは出来ませんので、下記に図式から読み取った内容記述してみます。

縦軸を公共支援の強弱、横軸を就労規範の強弱として、
1の領域:アクティベーション(就労規範=強、公共支援強)職業訓練等のイメージ
2の領域:ベーシックインカム(就労規範=弱、公共支援強)最低限の生活基盤を守る
3の領域:
4の領域:ワークフェア   (就労規範=強、公共支援弱)自己責任

これら三つの対処法が考えられる。
川井田さんのイメージする障害のある人への支援の領域は、1のアクティベーションと2のベーシックインカムの領域の中間辺りとの事。公民連携によるダブルアシストの可能性。

●ケイパビリティcapability
アマルティア・セン氏の理論:人が自らの価値を認める生き方をすることが出来る自由、機能の集合体(経済に倫理を持ち込んだと評価されノーベル賞受賞。様々な概念の変更:開発とはGDP等の経済的指標だけではなく、人々が享受する様々な自由を増大させるプロセスである。)

セルフエスティームself-esteem
自尊感情または自己肯定感

●自立
肯定的な自己像の獲得(セルフエスティームの高まり)が自立の基盤となる。
自分がどう生きるか自己決定すること(自己決定できない人の否定ではない)

具体的な活動の分析

たんぽぽの家のあゆみ紹介
わたぼうしコンサートが川井田さんの心を打った理由として、障害者自身が詞を書いていること、自己主張してはいけないのではとの既成概念から、自己主張することによって、それを受け止めてくれる他者の認識へ。それがセルフエスティームの高まりとなり、活動も広がった(エイブルアートへ)
芸術表現とは、様々な選択や自己決定や、それを受け止めてくれる人への訓練ではないだろうか。
発足後30年、当初はアート制作=人間関係作り的な活動であったが、路線変更があり、エイブルアートカンパニー(中間支援の組織)の設立へ。

アトリエインカーブのあゆみ紹介
障害者のアートは日本では従来、福祉としての評価でしかなかった。海外での評価はアートとしての作品主体のもの。2005年にニューヨークでのアウトサイダーアートフェアに出展し作品主体の評価が得られ、注目されるようになった。2008年のサントリーミュージアム天保山での展覧会では、アウトサイダーアートの記述もしなくなった。現在知的障害者25名で、絵画等の作品作り中心の施設。

この代表的な施設の活動分析から、共通した分析結果として、「障害者のセルフエスティームの高まり」の図式の解説。
芸術活動によりセルフエスティームが高まり、固有価値(潜在的)が生まれてくる。そこへ多様なアクターによる支援が加わる事で、有効価値(有用性+芸術性)へと。
この概念図はとてもユニークなものですね。個人的にはセルフエスティームの高まりのベクトルが右肩下がりに描かれているところユニークと感じます。

最後に、ソーシャルガバナンスの概念図について解説があり、インフォーマルセクター(家族や友人、コミュニティ)と、国家政府や企業との結びつきを強める働きをする多様な形態のボランタリーセクターが増えていく事で、障害者にとって生きやすい社会が生まれてくるとのお話は、我家の夢として、何らかの形で障害者アートの運営に関わりたいと思っていますし、参考になりました。

第二部は参加者とのディスカッション。
個人的に、アトリエインカーブさんの施設見学をしたり、展覧会もたくさん拝見してきたので、お聞きしたい事があり、川井田さんの創造都市の概念と比較すれば、目の前の自分だけの狭い興味でしかないのですが、先に関連する質疑をされた方があったので、僕も質問と言うのか御願いのような発言をしてみました。
Q:障害者の作品を商品化することの問題点。アートの工房化、作家は疲弊しないだろうか?短期間は良いが、型はめ的ではないか?何十年先に見た時、最初に見た作品と同じだったとならないか?
A(司会者):アトリエインカーブの場合は、アートとプロダクトとは明確に区分している。
Q(てつろう):アトリエインカーブさんの施設、5年前に家族で見学会参加。当時既にグッズ販売されていた。昨年、サントリーミュージアムでの展覧会見て、クオリティがすごく高まっているのを感じた。これは何が起きているのだろうという関心から、同時開催されていた、心斎橋でのギャラリーインカーブでの公開制作等拝見してみた。作家達はほぼ全員、写真等を見て、二次創作的に制作している。そして出来上がった作品からサポートスタッフが商品化として、イメージを切り取っている。これは私の推測でしかないけれど、その商品を見た作家は、そこで自分の描いた作品世界への気付き(メタ認知的な)が生じて、その作用の好循環の中で、クオリティが高まっているのではと感じた。その事は、商品化うんぬんとは関係なく、彼らの作品のイメージを切り取って、提示することで、気付きやメタ認知を誘導する、一種のリアルタイムドキュメント的な働きをしているように感じるし、その関わり方を、分析していただいて、ロールモデル化して欲しい。

障害とアート研究会 第8回研究会
「障害のある人の芸術表現による自立とその支援について」川井田祥子(大阪市立大学都市研究プラザ 特任講師/同大学院創造都市研究科博士後期課程)
日時:17月6日(月)9時〜21時
場所:應典院 
参加費500円
http://popo.or.jp/ableart/news/cat111/_6-8.html