土の風貌 左官職人 久住有生展
硝子再生舎さんでのワークショップの帰路、まだ4時くらいだったので、行きたいなと思っていた展覧会会場へ。grafさんに置かれていたパンフレットで知った、この主水書房さんは華道家の片桐功敦さんが主宰されていて、隅々まで美意識を感じる素敵な場所でした。周囲のロケーションはすぐ近くに仁徳天皇陵があり、静かな環境で本当にこんなところに夜8時まで開いてるギャラリーあるんかなと疑う訳ではないけれど、行く前に今日やっていますか?と電話して確認してから向かう。
辿り着くと玄関は開けられていて、片桐さんが迎えてくださる。作者の久住さんは不在の様子。
続きの間の床の間側の畳の床が土のオブジェと化していて、とてもシュールな雰囲気。イザナギとイザナミの創造神話のイメージで作られたらしく、渦巻く土の波と大きな棘のような尖った円錐がたくさん突き出ている。現代アートとして見ると、日常的に地の存在である土壁が図化してシンボル化されているような既視感のあるようなないような造型であるが、左官職人としてのスキルがそのような枠を越えて何かをこちらに伝えてくるようだ。
他に四双一曲の土壁の屏風が対面側に置かれていて、こちらは図はなく地としての土壁であるが、屏風の枠が鉄のアングル状のもので出来ていて、四双一曲であるが為に中央の折れ点がこちらに向いて、強いエッジが主張している。作者さんは押えきれない情念のようなものを抱えているのかなと空想する。
しばらくして、ギャラリーの方から、お茶とお菓子をいただきアーチャンも大喜び。とても落ち着く設らいの雰囲気。
玄関入ったところの正面に、飾り床があり、これはお聞きしませんでしたが、おそらく片桐さんのものと思われるが、焼けたような泥を塗ったような真っ黒な大きな瓢箪が置かれていて、床には生米の粒が遠近感を強調するようにストライプ状に置かれている。土壁のオブジェと合わせて見ていて、僕は以前見た現実とも夢とも判然としない経験を思い出していた。
もう三十年くらい前だろうか、信仰心の篤い叔母さんに急に連れられて高野山にお参りに行き、御住職の御好意で奥の院の非公開の御部屋を見せていただいた時のこと。一つのお部屋の壁が鮮やかなエメラルドグリーンの粒々に覆われている。ナンヤコレと思っていたら、御住職の説明では、土壁の中にお米を埋めて、それに青カビが生えてきているのだそうだ。その美しさと、間逆の部屋中カビだらけというギャップにかなり驚いた記憶があり、いまだにあれが現実なのか夢なのか分からない。
片桐さんの焼けた瓢箪と生米のオブジェは華道的な美しさからは遠いものであるし、それを世相的な、例えば事故米に関わるような暗い行為へのアンチと捉えると、それも陳腐なものでしかないけれど、伝統的なものと真剣に向き合う事で得られたあらゆる存在する物への敬意や畏敬の念のようなものが伝わってきました。私自身もいつのまにか薄れてきてしまったそのような思いを回復する機会となったように感じます。
土の風貌 左官職人 久住有生展
http://www.geocities.jp/mondebooks/
主水書房のHPより