「クロニクル、クロニクル!」展

会場の名村造船所跡のCCO(クリエイティブセンターオオサカ)は、家から近く、徒歩&地下鉄で30分程なので、よく家族でアートイベントやワークショップにも参加しますし、工場跡の雰囲気も好きなので、今回は会期中に4回も通いました。2回目に長谷川新さんのギャラリーツアーに参加できて、理解も深まりました、企画の素晴らしさとアテンドに感謝。

クロニクル、クロニクル!
http://www.chronicle-chronicle.jp/

会期が今年と来年と同じ内容で繰返されるという、ユニークな企画。
キュレーターの長谷川新さんは、一昨年の京都のギャルリ・オーブで開催された「無人島にて 「80年代」の彫刻/立体/インスタレーション」展で、私が心の師と敬愛する福岡道雄さんはじめとするアーティストたちの再評価の機会を与えられたことで、個人的にとても嬉しかったし、この何故か評価の低いというか、批評の土壌の無さ故の無理解とも感じていた同時代を今回もテーマにされているのか、もっと射程の長いものなのか、注目して観ました。
出展されている19組のアーティストは様々な年齢、ジャンルの方々ですし、半数近くは既に亡くなられいるかなり過去の作家さんでした。
ほとんど知らないアーティストさんも多いので、個別の理解は、次回までに少しずつ情報などを得て、深めていきたいと思いますので、とりあえず、見終わって感じたことなどメモしておきたいと思いました。
webの資料で生年順に並べてみると、偶然か意図されたのか、年代によって、生年に隙間のような年代があり、気になってそこに、今回のコンセプトにもされている、ジェーン台風のような自然災害や、戦争、大恐慌といった、国家レベルの歴史的な出来事を挿入してみると、うまくフィットしました。


第二次世界大戦以前に生まれたアーティストさんたちの作品は、きっちりと細部まで作り込む、モダニティ溢れるテイストを感じます。
大阪万博以降もしくは80年代以降に生まれた若いアーティスト達の、座標軸が定まらないで、常に揺れているようなイメージもとても良い。
その中間のような、私も1958年生まれなので、この50年代に生まれた3名のアーティスト(笹岡敬、田代睦三、伊東孝志)たちには、強いシンパシーを感じますね。まだ携帯電話もパソコンも無いアナログな情報環境の中で生まれ育って、でも30歳頃からのデジタル情報革命の恩恵も実感しつつ、その両面の境界線を跨ぐように制作し続けているような、モダニティ溢れる前の時代の作家達と、新しい作家達のテイストの分岐点のように感じます。おそらくその時代に焦点を当てられたのが、先の「無人島にて 「80年代」の彫刻/立体/インスタレーション」展だったのではと思いますし、まだ現役の選ばれた50年代生れの、私と同期のアーティスト達の作品が、今後どう展開し、繰返されるのか、とても楽しみと感じます。
50年代生れの3名が、作品中に、机や黒板、笹岡さんは日用品の鏡を多数募集して反射用に設置と、日用品(=大きさに依存する世界とも感じる)を用いていること、それにより近接効果が生まれて居る事など、とても興味深い。

19組のアーティストたちと同等に、ひょっとするとそれ以上に、キュレーターさんたち企画者が、敬意を込めて視線を送っているのではと感じるのは、会場の名村造船所跡ですね。19組ではなく、20組と言っても良いくらい、この工場の良さを理解し、活用されていると感じました。

過去、ここを使った展示の際、3階以上の階へのアクセスは、屋外階段のみ使用されてのことだったと記憶しますが、今回は内部階段を使用していました。これも偶然か、建設当時の設計者(検索しましたが不明)が意図されたのか、全ての階段の上がり方が、反時計回りになっていて、その循環のイメージもうまく会場構成に取り込んでいるように察せられました。(フィギュアスケートのジャンプでも、陸上競技のトラックの進行方向も、たいてい心臓を軸にした反時計回りであり、体感に馴染む効果)
上階に登るに連れて、コンクリート階段から、鉄骨階段へと軽量に透けて行きます。吉原治良さんの緞帳原画がガイド役のように人を導いている。

また、1階の過去の工事で出たガレキ置場も、そのまま触らないで、何も置かないで、静かに距離を取っていて、まるでそれが過去のいわゆる「もの派」のインスタレーションではないかと、一瞬思ってしまうほど(もしくは置いた方がインスパイアされていたか)強度のある空間でした。そして、そのことを長谷川新さんが意識された上での、何も置かない判断だったという事を、氏のtwitterでの書き込みで知り、この方の思考の射程の深さに改めて感じ入りました。

そして、何といっても4階の現寸場とその床の痕跡。
私もサラリーマン時代、建築の鉄骨造の原寸検査は設計監理として、何度かしましたし、当時は実務的なこととして、特に何も感じませんでしたが、こうして焦点を当てて床の、描いて消しの痕跡を観ると、胸が熱くなりますね。
今はもうcad/camで、自動的に切断加工がほとんどの場面で可能になり、原寸で実際に描いて、フィルムに転写して、それをまた鉄骨に転写して、切断という気の遠くなるような、でも必要な工程を、することもあまり無いのでしょうし、貴重な産業遺産として今後も保存して欲しいですね。
壁のすぐ近くまで、びっしり描かれた痕跡を観ると、職人さん達の姿が思い浮かびます。

次回展までの間に、アーティストたちの世界に対する理解が深まり、言葉にできるようであれば、再度書き込んでみたいと思います。
改めて、素晴らしい展示に感謝。

おまけ。
我家が参加した名村造船所跡の外部の防波堤の壁画ワークショップの記録。

WALL PAINTING PROJECT 03
http://d.hatena.ne.jp/prader-willi/20121124/workshop

namura152P
http://d.hatena.ne.jp/prader-willi/20120122/workshop