「新しい人よ目ざめよ」大江健三郎著について

僕が「新しい人」という言葉が好きになったのは、大江健三郎さんの「新しい人よ目ざめよ」を読んでからだと思い出す。
1983年初版だからもう20年も前の事。一度紛失して、現在のは2冊目。本が出た頃、大阪の高槻市で講演会があり、障害のある息子さんの話に深く感動した。僕は大江さんの事、良く知らなくて、フィクションだと思っていたから、ショックでもあった。光さんに作曲能力があることはまだ分からなかった頃だったけれど、大江さんにとっては、生まれてからずっと喋れなかった光さんが初めて言葉を発した瞬間が最高に幸福な瞬間であった事が伝わった。僕達家族にとって大江さんの生き方は一つの指針でもあると感じる。困難な状況の光さんとの少ない言葉のやりとりを、イギリスの詩人であり画家であるウィリアム・ブレイクの詩の解読に添いながら物語は進んでいく。僕達も、アーチャンの見せる様々なアクションの中に、新しい意味を見つけて行きたいと思います。

「無垢の歌、経験の歌」の章より一部引用

(前略)その夜から、僕は数年ぶりに、いや十数年ぶりに、集中してブレイクを読みはじめたのであった。最初に僕が開いたページは<お父さん!お父さん!あなたはどこへ行くのですか?ああ、そんなに早く歩かないでください、話しかけてください、お父さん、さもないと僕は迷い子になってしまうでしょう>という一節だった。(後略)

僕も10数年ぶりにパラパラと読み直してみて、今、小説の中の父と同じ事をしているんだと思う。娘のペースでゆっくりやろう。そう改めて思う。